Research

高分子絶縁材料中のキャリア移動度測定

    概要

     宇宙機において,最も重要な要素の一つとして固体高分子絶縁材料による被覆が挙げられる.宇宙空間において,放射線に曝される絶縁材料では特に,電気絶縁特性が重要となる.電気絶縁特性を示す物性値は,体積抵抗率や空間電荷量などがあるが,その全ては絶縁体内の電荷の挙動であり,電荷の移動度,キャリア移動度に帰着する.汎用品の絶縁被覆材の電荷挙動がキャリア移動度の評価により明らかになれば,環境に合わせた正確な材料選定が行える.一方で,月軌道等では地球近傍では考えられなかった環境への対応が必要となる場合がある.そこで,さらなる高機能材料を新たに開発する必要があるが,キャリア移動度による電荷挙動の解析を行うことで実証実験の試行回数を減らし,低コストで開発することが可能になる.キャリア移動度には絶縁体中の局在順位に捕獲されずに絶縁体の伝導体を移動する速度の速い真性移動度と,絶縁体中の局在順位に捕獲されながら移動していく,比較的遅い不純物移動度がある.これらのキャリア移動度を評価するために,高分子材料の電子構造を考慮した量子化学計算,量子化学計算によるキャリア移動度の推定が行われている。本研究では,当研究室で用いている空間電荷計測手法であるパルス静電応力 (pulsedelectroacoustic: PEA) 法を応用し,不純物移動度を計測する手法を開発し計測評価を行っている。


    PEA 法を用いた不純物移動度の測定手法

     PEA法について,測定試料を高電圧電極と接地電極で挟み,高電圧印加中及び短絡中にパルス電圧を印加する.これにより,試料内にパルス電界が発生することで,試料内部に蓄積していた電荷はパルス状の静電応力を受け,電荷蓄積部が微小変位することで圧力波が発生する.この圧力波は試料・電極を伝搬して圧電素子に入力され,電気信号に変換される.電気信号は電荷量に比例し,検出時間差は圧力波の伝搬時間,つまり電荷の蓄積分布に対応している事から,空間電荷蓄積分布を知ることができる。 キャリア移動度の測定に際しては,通常のPEA法による空間電荷測定と異なる.本測定方法では試料に電子線照射による試料構造体の励起を行い,電子正孔対(キャリア源)を生成する.その後測定電極に設置し電圧を印加することで発生した電界で,電子線照射によって生成したキャリアを電子線未照射領域である接地電極側へと走行させる.キャリア生成領域は電子線照射時の加速エネルギーに依存する.このキャリアの移動距離・速度からキャリア移動度を算出する.